歌集紹介

2022年印象に残った歌集まとめ

2022年も沢山の歌集と出会い、沢山の歌を読むことができました。

今回はそのなかでも個人的に特に印象に残っている歌集を紹介します。

水上バス浅草行き(著者:岡本真帆)

■歌集全体の印象

 今年一番読み返した回数が多い歌集。全体的にライトな言葉づかいで非常に読みやすく、なのに読むたび新しい発見がある一冊です。全体としては明るいイメージの歌集ですが、だからこそそこにある寂しさや切なさが際立って見えてきます。またファンタジーよりも地に足がついたヒューマンドラマに近い印象の歌が多く、短歌を始めたばかりのひとにも理解しやすい、おすすめの一冊です。

■印象に残っている一首

歌集1ページより引用
3、2、1、ぱちんでぜんぶ忘れるよって今のは説明だから泣くなよ

 最初に読んだときは「独特なリズムと斬新な表現!なんておもしろい一首なんだ」という感想だったのですが、読めば読むほどここに込められた切なさや寂しさの印象が強くなっていって、今ではがらっとイメージが変わった一首です。
 私はいい歌には想像の余地がある「物語性」があると思っているのですが、この歌には非常に広い奥行きがあり、一首で様々な物語を読み手に与える秀逸な歌だと思います。

ヘクタール(著者:大森静佳)

■歌集全体の印象

 大森静佳さんの歌は「読む絵画」だと思っています。歌に込められた視覚イメージは壮大で、読むたびに頭のなかに見たこともない美しい景色や、そこに眠る鮮烈な感情が呼び起こされます。最新歌集『ヘクタール』はそのイメージをさらに強く感じた一冊。花や樹木など自分も含めた様々な命を詠み、彩り豊かな情景を閉じ込めた歌たち。額縁に飾られた著者の魂にあてられ、荘厳な気持ちでページを開きたくなる歌集です。

■印象に残っている一首

歌集46ページより引用
さびしさの単位はいまもヘクタール葱あおあおと風に吹かれて

 目に浮かぶのは青々と広がる一面の葱畑。主体はそこに美しさや清々しさではなく、手の付けられないほど広大なさびしさを感じています。本来ならそんな感情とは結び付かない「ヘクタール」という言葉が、想像できないほど大きいさびしさを効果的に表現。絵画的な視覚イメージと、どうにもできないほど強い感情が込められた、歌集表題に『ヘクタール』が選ばれたことにも納得させられる一首です。

毎日のように手紙は来るけれどあなた以外のひとからである 枡野浩一全短歌集(著者:枡野浩一)

■歌集全体の印象

 枡野浩一さんの歌はどれも平易な言葉で詠まれていて、おそらく短歌に触れたことがないひとでも描かれているシーンや言葉を理解できると思います。しかしそれは「簡単」ということではなく、歌の奥にあるストーリーや感情は複雑に絡んでいて、何度も読みたくなる再読性に溢れています。短歌に興味を持ちはじめたひとにも、短歌を読み込んできたひとにもオススメしたい、稀有な一冊です。

■印象に残っている一首

歌集325ページより引用
さよならをあなたの声で聞きたくてあなたと出会う必要がある

 あなたから「さよなら」と言われるためにはあなたと出会わなければいけない。詠まれているのは至極当然なこと。なのにこんなにも、胸を締め付けてくるのはなぜでしょうか。これはいつか出会う好きな人へ向けたものなのか、「さよなら」という言葉すらなく別れてしまった好きだった人へ向けたものなのか。平易な言葉のなかに、いくつもの想像をさせる余地を残した懐の広い一首です。

最後に

 2022年は短歌ブームという言葉もささやかれ始め、今まで以上に短歌に興味を持った人が多くなった1年だと思います。ここで紹介している以外にも、素敵な歌集は沢山あります。それどころかネット上や同人誌にさえ、素晴らしい歌が散りばめられています。歌の好みはひとそれぞれ当然違います。自分の好きな歌を探すためにも、是非色々な歌に触れてみてください。

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